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恋する心(平成18年11月(1))

 秋です。今回も恋にまつわるお話を一つ。「毎年一冊、15年間をかけて書く」と宣言されて「ローマ人の物語」を執筆して来られ、今年末がいよいよ最終年になる塩野七生さんに、随筆集「サイレント・マイノリティ」(新潮文庫)があります。二十年余も前に雑誌「新潮+45」に連載されたエッセーをまとめられたもので、この中に「ラブストーリー」と題する印象に残る恋物語があります。塩野さんがトスカーナ地方の古い街ヴォルテッラに住むインギラーミ侯爵と偶然に知り合うところとなり、インギラーミ侯爵の一途な恋の顛末を聞かされることになるのです。
 
 秋もたけなわの一日、ふと思い立った塩野さんが、フィレンツェから車で二、三時間のヴォルテッラを目指し、街に到着して昼食をとるべく、あるレストランに入ったところから物語は始まります。読み進めていくうちに、まるで映画でも観ているように、次から次へと頭の中にシーンが思い浮かべられて、ここは来たことのある街ではないかと錯覚するような、何か懐かしさがこみ上げてくる情景が展開します。

 そのレストランは平日だというのに、あいにく満員状態で、主人らしき人が来て「相席でもよいか」と問い、塩野さんは了承します。そこで隣り合わせになるのがインギラーミ侯爵です。すでに食事を終えてお茶でも啜っていたのでしょうか、 あるいは異邦人の塩野さんにこの古い街を紹介するのが務めとでも思っているかのように、塩野さんに対応してくれたのです。結果的には美術館が開館するまでの昼のひとときを、古い鬱蒼とした侯爵の館に招かれて、食後のワインを飲みながら過ごし、さらにはその美術館までも案内してくれることになり、後に、侯爵がフィレンツェの塩野さんを訪ね、若き日の侯爵の恋物語を聞かせることになったのです。

 時は第一次と第二次の世界大戦の間と言うから1930年代のことでしょう。ヴェネツィアの大学を出たばかりの若い侯爵が、四歳年上でしかも五歳の子持ちの服飾デザイナーという職業を持つ、今で言う未婚の母に恋焦がれてしまったのです。男児までつくった秘めた愛人とは切れないでいる彼女に、侯爵はそれを承知の上で結婚を申し込み続け、その都度、微笑みと共に拒絶され続けるのですが、一年と四ヶ月目に彼女は愛人と別れ、インギラーミ侯爵の愛を受け容れるのです。ただし、結婚という形は最後まで拒んだといいます。

 若き侯爵は、「何故、彼女が自分を受け容れてくれたのか」は解らないままに、有頂天になって車の運転を習い、アルファロメオの赤いオープンカーに彼女を乗せて、フィレンツェからヴォルテッラまで走らせたといいます。その後、この愛は彼女が職業婦人のまま、子供が成長し、独立してローマで暮らすようになるまでの30年もの間、変わることなく続きますが、やがて彼女が亡くなって悲しい終末を迎えます。

 以後、インギラーミ侯爵はヴォルテッラに引き込んでしまい、塩野さんが侯爵に会った時には、彼女が亡くなって丁度十年後のことだったらしく、その後、約束していた本を届けるためにフィレンツェの塩野さんを訪ねてきて「宿縁なのでしょうね」と、この恋物語をした侯爵も、塩野さんが「ラブストーリー」を書き終えたときは、すでに亡くなっていたというのです。

 この恋物語はフィレンツェの上流社会では有名な話であったようです。若き侯爵が「何故自分を受け容れてくれたのか」解らないままに有頂天になっていくところで、塩野さんは次のような一節を挿入しています。

 『・・・。女は、どれほどしっかりしているようにみえても、どれほど知的で才能にあふれていて
 も、いやそれだからなおのこと、一瞬にして崩れる時があるものなのだ。とくに、はしたない
 生き方を自分に許さず、そんなことをしてはならないとしつけられた女の場合、相手が当惑
 するほどの激しさで崩れ、弱さをモロにあらわにする。・・・』
 
 塩野さんは、この才気あふれるデザイナー、インギラーミ侯爵の彼女にも、その一瞬が訪れたのだろうと説明するのです。この一節を読むと私の胸は騒ぎ始めます。何度読んでも同じです。読者にとっては、とくに男にとっては、素通りの出来ない気になるお店の前に佇んでいるような一節ではないでしょうか。「恋する心などは、とうの昔に何処かに置いてきた」筈なのに、何故か胸騒ぎがしてくるのです。(A)

 

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