""
株式会社ハートウェア SI Visionの株式会社ハートウェア:「語りかけ、歩み寄る」タフに地道にハートワーク、フットワーク
""
株式会社ハートウェア:ホームへ
""
株式会社ハートウェア:会社情報
""
株式会社ハートウェア:サービス
""
株式会社ハートウェア:採用情報
""
株式会社ハートウェア:ハートウェア応援団
""
今月のハートウェア応援団
バックナンバー・気ままにご挨拶
バックナンバー・読書に乾杯! 
バックナンバー・恥かき読書
バックナンバー・エッセイ
""
株式会社ハートウェア:リンク集
""
株式会社ハートウェア:社長の一言バックナンバー
SI Visionの株式会社ハートウェア
 
""
株式会社ハートウェア:ハートウェア応援団
""

第2回

◎ 高坂正堯著「文明が衰亡するとき」(新潮選書・1981年)から抜粋

  『全体として、ヴェネツィアは変化を恐れず変化について行く能力の衰えを示すようになった。結局のところ、それがヴェネツィア衰亡の原因であったと言わなくてはならない。というのは、衰亡期のヴェネツィアを訪れたイギリス人アディソンが述べたように、「通商国家はつねに新しい変化に対応する姿勢を持ち、時代が変化したり、危機がおこるときに臨機の措置を講ずることができなくてはならない」からである。』(本文156頁)

  七世紀から十八世紀まで一千年余に亘って、優秀な造船技術と航海術で、地中海を縦横無尽に航行して繁栄した海洋通商国ヴェネツィアが、リスクの大きな通商を避け、安定した土地からの収入に頼るという国風が蔓延しはじめたとき、衰亡の兆しが見えてきたのだと、この著書の中で高坂さんは言っている。そして、冒険を避け、過去の蓄積によって生活を享受しようという消極的な生活態度に陥り、貴族の中では結婚をしない独身男子が増加、十六世紀には既婚、未婚の割合が半々くらいであったのに、十七世紀になると未婚者が60%にも達したことを挙げている。少なくなっていく収入に対して人々は、生活水準を維持したいという気持ちから、子孫を増やすことに消極的になり、結婚を拒否する態度に現れたのだと分析する。

  一国が衰退していくのには幾つもの要素が働く。ヴェネツィアの衰退には、造船技術の変化に対応しなかったことも高坂さんは挙げている。つまり、十六世紀の後半には大砲の搭載を容易にする丸型帆船の軍艦化を、オランダやイギリスが実施したのに対して、ヴェネツィアはこれを商船として使用したが軍艦としては使わず、海軍の力を次第に弱めていくことになったと指摘する。優秀かつ熟練の漕ぎ手を保持するガレー船(人力船)の軍艦使用にこだわったのである。更にヴェネツィアは、これまで成功してきた地中海交易以上にその範囲を広げようとはしなかった。十五世紀末には、ヴァスコ・ダ・ガマによる喜望峰回りの東インド行き新航路が開設され、東方からのヨーロッパへの輸送は必ずしも地中海を経由しなくなった。ヴェネツィアはこの逆境に対して、古くから得意としたガラス工芸、金属細工、さらには新しく織物業も加え、加工貿易を行うことで一応は対峙したのではあるが。

  ひるがえって我が現状である。「驕る平家は久しからず」を昔から教えられてきている日本人には、「如何なる大国も移ろい易い運命の中にある」という高坂さんの言葉は、頭の中では理解できることであろう。ところが現在、多くの日本人は眼前で生起する出来事に対して己の欲望に心を奪われ、さもなければ身の保全を第一義として、まさにヴェネツイアの辿った同じ道を歩み始めているのが実態ではないか。嘗て日本人は、亡国にも等しい敗戦という苦境を勤勉と努力と運の良さも手伝って克服してきた。世界に長く続いた米ソの冷戦状態と、国家の安全保障を米国に任せるという環境の中で、原材料を輸入し加工した商品を輸出する、いわゆる海洋通商国家、経済大国として世界各国に成長させてもらったのである。しかし、それにもかかわらず、気がつけば経済は収縮し、次代を背負う筈の世界第二位といわれた情報産業も多くの国の後塵を拝している。そして高齢化、少子化、教育の不備まで問題点となって、衰退への坂道を転がり始めている。

  憂国の士によって現状打破のための提案がなされても、即効薬や特効薬などある筈もなく、長期間の対策が必要なことばかりで途方にくれている。そして、目先の利ばかりを追う風潮は懲りることを知らず、拝金主義や若者の無謀な行動ばかりを呆れ果てたように面白おかしく言い、政治のことといったら負の部分のあげつらいのみに終始して、亡国という事の重大さに気がつく様子もないと思うのだが如何なものだろう。このように自虐的で悲観的な中に浸っているだけでは真の実態が見えて来る訳はない。大衆に迎合して「ウケ」狙いばかりを追いかけているときではないと思うのである。

  高坂さんはこの著の末尾で、かのプラトンの言葉を借りながら通商海洋国日本の脆弱性を次のように言う。「通商国家は異質の文明と広汎な交際を持ち、さまざまな行動原則を巧みに使い分け、それらをかろうじて調和させて生きる。しかし、そうすることは当事者たちに、自信もしくは自己同一性(アイデンティティ)を弱めさせる働きを持つ。
 自分の大切なものが何であり、自分が何であるかが徐々に怪しくなる。すなわち道徳的混乱がおこる。しかも現実のレベルでは通商国家は成功する。それ故、人々は成功に酔い、うぬぼれると同時に、狡猾さに自己嫌悪を感じる。
 その結果おこるのは、あるいは社会のなかの分裂的傾向であり、あるいはより平穏な生き方への復帰を求める傾向であろう。前者は通商国家の広くて脆弱なネットワークを瓦解させる。後者は変化への対応力を弱める。この変化への対応力の弱まりは日本の衰頽につながっていく」と。

  そして高坂さんは、「日本の衰頽は我々の努力次第で運命が避けられると言いたいのではない。逆に、どの道、文明には衰亡が訪れるということで結論にするつもりもない。問題はそれが十年後に来るのか、五十年後に来るのか、それとも百年後に来るのかということであり、それまでに我々が何を作るかということなのである」と結ばれている。

  二十年以上も前の言葉であるが今の日本人にはズシリと重たく応えないか。時あたかも総選挙を終え、新しい日本のスタートの時期にあたる。今回の選挙では「二大政党政治の始まり」と言われているが、投票率が過去二番目に低い結果に終わり、各政党とも主張した政策が国民に届いたとは言えず、投票権のある国民にしても投票を放棄してしまうようでは、この難局に真面目に対応したとは言えないだろう。政治家だけを批判するのではなく、拝金的、自己
 中心的に偏りすぎている個々の現状を冷静に分析し、高坂さんではないけれど、「人々は自惚れや狡猾さや自己嫌悪に己を委ねているのではなく、再び困難を承知の上で変化に身をさらし、衰退を一年でも長く先に延ばす方法」を見つけ、注力しなければならないときであろう。そのためには、日本人一人ひとりが、残っている良心と叡知をかき集め、目を見開いて現状を直視し勇気を持って出直すしかないのではないか。今回は少し肩に力が入り過ぎた。ご容赦
 のほどを。(応援団A)

<<ハートウェア応援団・第1回へ ハートウェア応援団・第3回へ>>


Copyright 2001 HEARTWARE Co. All Rights Reserved.